「悪魔の寵児」(横溝正史)

金田一耕助の事件簿061

正体不明の怪人「雨男」が暗躍するエログロ・ミステリ

「悪魔の寵児」(横溝正史)角川文庫

「悪魔の寵児」角川文庫

無名の画家と心中を図った
実業家・風間の妻。だが、
その死には疑念が生じていた。
直前に情死の予告ともとれる
挨拶状が、風間の愛人たちに
出されていたからだ。
やがてその愛人たちが
次々に殺害される。
暗躍する「雨男」の正体は…。

昭和33年から雑誌に連載された、
横溝正史金田一耕助シリーズ
長篇作品です。
東京を舞台とした金田一ものは、
エログロ的色彩が強いものが
多いのですが、
本作品もその例に漏れません。
「雨男」なる正体不明の怪人が暗躍する
猟奇的殺人が連続します。

【事件簿File-061「悪魔の寵児」】
〔事件発生〕
昭和33年6月~9月(東京)
〔依頼人〕
風間欣吾
…戦後の新興実業家。
 性欲旺盛で複数の愛人を持つ。
 風間俊六の紹介で
 金田一に捜査を依頼。
〔捜査関係者〕
等々力警部
…警視庁捜査一課警部。
新井刑事・西井刑事
…警視庁捜査一課刑事。
坂崎警部補…丸の内署捜査主任。
山本刑事…丸の内署刑事。
橘警部補…上野署捜査主任。
中西刑事・上村刑事…上野署刑事。
田所警部補…赤坂署の捜査主任。
五島医師…監察医。
古垣博士…警視庁鑑定主任。
前田博士…法医学の権威者。
〔事件関係者〕
雨男
…正体不明の怪人・殺人鬼。
 レインコートを着て眼鏡。
水上三太
…東都日報文化部記者。
 カステロの常連。事件に深く関わる。
 カステロの石川早苗に惚れている。
風間美樹子
…風間欣吾の妻。
 情死死体で発見される。
城妙子
…風間の愛人。
 高級バー・カステロのマダム。
保坂君代
…風間の愛人。
 美容院ブーケ・ダムールを開業。
宮武益枝
…風間の愛人。洋裁店からたちを経営。
湯浅朱美(本名:山本ウメ子)
…風間の愛人。ミュージカルの女王。
望月種子
…風間の元妻。上野で蠟人形館を経営。
 異常性癖者。
及川澄子
…風間がかつて付き合っていた女。
 種子との結婚の際、
 風間に捨てられている。
黒田亀吉(猿丸猿太夫)
…蠟人形づくりの名人。
 種子の下僕的存在。異常性癖者。
有島忠弘
…かつて妻・美樹子を家屋敷ごと
 風間に売った男。現在は朱美の夫。
石川宏
…無名画家。
 美樹子との偽装心中に巻き込まれる。
石川早苗
…宏の妹。カステロのホステス。
夏子・由紀子・お京
…カステロのホステス。
酒井…カステロのバーテン。
白崎…風間家の運転手。
郷田…風間家のかかりつけ医。
川崎もと子…療養中の石川宏の付添婦。
茂や…風間家女中。
河合善太…芝ハイヤー運転手。
上田敏子…保坂君代の弟子。
南貞子…保坂君代の伯母。
緒方博士…緒方病院院長。
Y医師…石川宏が入院したY病院の医師。
〔事件の概要〕
⑴美樹子と石川宏の偽装心中事件。
 美樹子は死亡(らしい)、
 宏は薬物により意識不明。
⑵風間邸に移送した美樹子の遺体が
 消失する。
⑶蠟人形館に潜入した水上三太が
 望月種子に発砲される。
⑷君代、遺体で発見される。
 風間を模した人形と結合状態。
⑸退院する石川宏・早苗兄妹が
 何者かに誘拐される。
 早苗は発見。宏は行方不明。
 宏は後に蠟人形館の地下室に
 監禁されているのが発見される。
⑹風間と朱美の情事が
 何者かに盗撮される。
⑺宮武益枝・黒田亀吉が遺体で発見。
 二人は結合状態。
⑻蠟人形館の人形の中から
 美樹子の遺体が発見される。
⑼発狂した種子が入院先で毒殺される。
⑽金田一耕助、雨男の銃撃を受け重体。
⑾城妙子と有島忠弘が
 遺体で発見される。
⑿朱美が狙われるが、未遂で終わる。

本作品の味わいどころ①
事件、事件、また事件!

本作品は、
とにかく事件が起きまくります。
出だしこそ
スローペースだったのですが、
途中から事件ラッシュ。
残り頁わずかの状態でも
事件が起こるというとんでもない
事件記録となっているのです。

上に記したように、
風間の妻・美樹子と
愛人3名(君代・益枝・妙子)、
巻き添えを食う形で
黒田・有島・種子の、
なんと計7名もの人間が
雨男に殺害されているのです。
さらには金田一まで銃撃、
最後の殺人は
何とか阻止できているのですが、
それらを含めると
2件の殺人未遂が追加となります。
そして死体遺棄・死体損傷、誘拐監禁、
薬物注射による傷害および殺人未遂等、
いったいいくつの犯罪を犯したやら。
この事件の連続による
息もつかせぬ展開を、
まずはしっかり味わいましょう
(それにしても警察や金田一が
ふがいなさ過ぎる気がするが…)。

本作品の味わいどころ②
エロくてグロい殺人鬼!

そして東京の事件ですから、
全篇にわたってエログロ色満載です。
単に殺害するだけでなく、
死体を弄んだ後、
蠟人形や他の男の死体と結合させて
人目にさらすなど、
常軌を逸しすぎです。
「魔女の暦」「幽霊男」なども
エログロ系でしたが、
本作品はそれらをはるかに凌ぎます。
横溝正史、ここまでするか!
横溝作品中№1のエログロ色を、
次に十分に味わいましょう
(味わいすぎると読み手の精神も
危なくなるのですが)。

本作品の味わいどころ➂
怪人物「雨男」の正体は?

そして注目は怪人物「雨男」です。
名前はまったく
おどろおどろしくないのですが、
正体不明・神出鬼没であり、
存在感は大きなものがあります。
しかも二人いるらしいことも目撃され、
謎は深まるばかりです。

他の横溝作品の場合、
登場人物がすべて怪しく、
誰がいったい犯人なのか、なかなか
つかめないことが多いのですが、
本作品の場合、
怪しい人物が数名描かれているものの、
それらが「雨男」である可能性が低く、
読み手を困惑させます。
最後まで犯人を
絞り込むことができません。
「雨男」の正体はいったい誰なのか?
読み手のミスリードを誘う
横溝の罠をかいくぐっての
真犯人捜しを、
最後に思う存分堪能しましょう。

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今日のオススメ!

「悪魔の寵児」という
ぼんやりとした表題の意味も、
読み終えると納得です。
横溝正史の毒に染まりたい方に、
年末年始のミステリ三昧の一冊として
お薦めします。

〔動画もよろしく〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

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〔本書の表紙デザインについて〕
角川文庫から出版されている本作品、
現在は例によって漢字一文字の
つまらないデザインです。

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かつての杉本一文表紙は、
実は3種類存在します。
以下は昭和時代の一つめ、
二つめのものです。

昭和時代一つめの表紙
昭和時代二つめの表紙

これらは本作品の内容と
かみ合っていません。
本作品に人形は多々登場するのですが、
等身大の蠟人形であり、
一作目の表紙の人形は
サイズが小さすぎます。
二作目の表紙のマッチョな殺人鬼は、
もしかしたら
黒田を表しているのかも知れませんが、
彼は体毛が濃く、
ゴリラのような風貌であることから、
該当しないのです。
そう考えたとき、
平成に入って登場した第三作の
「雨男」バージョンが、
最も本作品の内容を正確に
表しているということになります。

残念なことに、
この杉本画伯のイラストは、
平成時代のトリミング版しか
存在しません。この
フルサイズ版の表紙で復刊したなら、
かなり売れると思うのですが、
角川文庫に
そうした動きは見られません。
10年後の横溝正史
生誕130年没後50年の記念企画を
待つしかないのでしょうか
(それも望み薄そう)。

〔関連記事:横溝ミステリ〕

〔横溝ミステリはいかが〕

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